ケーブルに数万円かける。
インシュレーターを吟味する。
カートリッジのスペーサーを0.5mm単位で追い込む。
そこまでやっておきながら、部屋そのものにはなかなか手が付けられない。
オーディオ評論家の長岡鉄男氏は「部屋は最大のオーディオアクセサリー」と説いていた。
そんな彼でも、”一生に一度贅沢をさせてくれ!”と自宅の敷地に「方舟」というオーディオやホームシアター専用の空間をコンクリートと鉄骨で建てた。
私はその本を何度も読んだ。
だが簡単に家を建て直すことなどできない。
ましてや長年の間、団地住まいだった。
そう思っていたが、実家の両親と同居することになり、リノベーションで部屋そのものに手を入れる機会が巡ってきた。
目的は間取りの変更と断熱だった。
ところが結果的に、防音も音響も劇的に変わった。
【もくじ】
- 音楽室の記憶 ”あれは吸音室だった”
- リノベ前はクレームだらけだった
- 開口部を塞ぐ 「音は穴から漏れる」
- 断熱工事が、遮音と音響を連れてきた
- ネオマフォームが太鼓鳴りを止めた
- 床の強度 ”同じ部屋の中で音が違った”
- 吸音しすぎない <現状と今後の課題>
- 断熱リノベの、思わぬオーディオ的恩恵
- まとめ ”部屋こそ最大のオーディオパーツ”
音楽室の記憶 ”あれは吸音室だった”
まず、子供の頃の話をさせてほしい。
私は小学校の音楽室が嫌いだった。
・壁は有孔ボード、その裏にはグラスウール
・天井は虫食いのような穴の開いたジプトーンボード
・床はカーペット
生徒たちが合唱をしても、先生がピアノを弾いても、響きが全部吸われてしまう。
音が完全に死んでいた。
音楽の授業なのに、音を楽しむことができなかった。
ある日、音楽の先生が授業を中断し、私たち生徒を理科室に移動させて歌わせたことがあった。
子供ながらに、私は先生の意図を理解していた
理科室の方が、声がよく響いたのだ。
防音室と吸音室は、似て非なるもの
あれは音楽室でもなく、防音室でもない。
あの部屋は、吸音室だ。
・防音(遮音)とは:音を外に漏らさない、外から入れない
・吸音とは:部屋の中の音を吸って、響きを減らす
この2つはまったく別の話なのに、混同されている。
音を吸えば確かに外への漏れは少し減るが、それは部屋の中の音楽を殺すことと引き換えだ。
音楽室は決して吸音室であってはならない!
この誤解は今も建築の世界に残っている。
オーディオルームを作ろうとして、吸音材だらけの部屋にしてしまう例は少なくない。
リノベ前はクレームだらけだった
我が家は築40年以上の鉄骨ALC造。
実家暮らしのころ、3階の一室が、私のオーディオルームだ。
リノベ前の主な間取りはこうだった。
1階:LDK、水回り
2階:両親の寝室、客間、納戸
3階:私の部屋(オーディオルーム)、ほか居室
この配置が最悪だった。
3階で音楽を鳴らすと、1階のリビングにいる家族からクレームが来る。
夜に鳴らせば、2階の寝室から父に怒鳴られた。
音は上下に伝わる。
特に低音は、床と壁の構造体を通って建物全体に回る。
最も効いた対策は「部屋の配置を変えること」
リノベで間取りをこう変えた。
1階:両親の寝室、水回り
2階:LDK
3階:オーディオルーム(変わらず)、他居室
高齢の両親がトイレや風呂が近くなるように1階に両親の寝室を設けた。
結果的に、3階のオーディオルームから最も遠い1階が、両親の寝室となった。
結果、リノベ後にクレームが来るのは、3階で隣接する娘の部屋だけになった。
しかもそれは、休日の昼から夜にかけて生音に近い音量で鳴らしたときだ。
防音材を何メートルも貼るよりも、間取りを見直す方が効く場合がある。
これはリノベだからできたことだが、オーディオルームや演奏部屋は寝室から一番遠ざけることは重要だ。
これから、リフォームやリノベーション、新築する際は、覚えておく価値のある考え方だと思う。
開口部を塞ぐ 「音は穴から漏れる」
音が最も漏れるのは、壁ではなく開口部だ。
窓とドアがネックになる。
内窓の効果は絶大だった
◆2階LDKの北側:もともとペアガラスだったが、そこにペアガラスの樹脂サッシ枠の内窓を追加した。
→ 2枚とも閉めると、外の音がほとんど聞こえない。
◆3階オーディオルーム::単板ガラスのサッシに、ペアガラスの内窓を追加。
→ 2階には劣るが、それでも劇的に静かになった。
内窓は断熱目的で入れる人が多いが、遮音効果も非常に大きい。
サッシとサッシの間の空気層が音を止めてくれる。

尚、内窓は政府の省エネ政策で、補助金がでる。
年々、補助金額が減ってきているようなので、早めに、内窓を設置することをおすすめする。
簡易防音ドアの実力と限界
オーディオルームのドアは、パナソニックの簡易防音ドアにした。
※図はパナソニックのサイトから引用


・他の居室ドアより明らかに重い
・アンダーカット(ドア下の隙間)がない
普通の建具とは別物だ。
それでも、大音量で鳴らせば娘からクレームが来る。
「簡易」と名がつく通り、本格的な防音扉ではない。
過度な期待はしない方がいい。
本来は、内窓と同様にドアも二重に取り付ける方が良いが、スペースと予算の都合上
断念した。
ただし、パナソニックの簡易防音ドアは、リノベ前と比べれば漏れは激減した。
窓を殺して壁にする
1階の両親の寝室の東側にはもともと窓があった。しかし、日当たりが悪いので窓があっても光が入らない。
ほかに掃き出しの大きな窓があるので、東側の腰窓がはロックウールをボードや鋼板で挟んで塞ぎ、完全に壁にした。
開口部が一つ消えるだけで、遮音性能は大きく変わる。
使わない窓があるなら、塞ぐという選択肢は検討する価値がある。
断熱工事が、遮音と音響を連れてきた
ここからが本題だ。
そもそも今回のリノベの主目的は、両親と同居するための間取り変更と鉄骨造の寒さ厚さを軽減するための断熱だった。
音のことは二の次だったのだが、結果的に音が最も変わった。
無断熱だと知ったのは、解体してからだった
築40年以上の鉄骨ALC造。
内装を解体して初めて、無断熱だと判明した。
外壁はALC、その内側に下地を介して12mmのプラスターボードが貼ってあるだけ。
断熱材はゼロ。
今の時代のような断熱等級も省エネ住宅も、当時はなかった時代の建物だ。
無断熱の鉄骨造は、夏は暑く、冬は寒い。
急遽、工務店に断熱工事の追加を依頼した
工務店に「コスパが悪い」と断られた
ところが工務店の反応は芳しくなかった。
「費用対効果が悪いです」
理由は分かる。
既存壁を壊し、間柱や桟を組んで100mmのグラスウールを入れ、12mmのPBを貼る工法では確かにコスパが悪い。
しかも、10㎝以上も壁を内側にふかしたら、部屋がかなり狭くなる。
だが諦めきれず、私は断熱について調べまくった。
建築系YouTuberにも質問した。この時期、それまで、1年以上前からかなり勉強した。
ネオマ断熱ボードという答え
そして思い出したのが、ネオマフォームだ。
薄くても熱抵抗値が高い。
部屋を狭くしたくない我が家には最適だった。
採用したのは、25mmのネオマフォームに9.5mmの石膏ボードがあらかじめ貼り付けられた「ネオマ断熱ボード」。
これなら既存壁の上に貼るだけでよく、壁を壊す必要がない。
工務店はこの商品を知らなかった。私が製品サイトのURLを送って説明した。

外壁に面する壁すべてに貼るよう指示すると、工務店はギリギリまで難色を示した。
工期が延び、指示通りに進まないこともあり、正直かなり揉めた。
それでも押し通した。
結果、今、快適に過ごせている。
天井裏にはロックウール100mm
断熱は壁だけではない。
◆3階(オーディオルーム)の天井裏:ロックウール100mm
◆2階LDKの天井裏:ロックウール100mm
◆1階(両親の寝室)の天井裏:ロックウール100mm
各階の天井裏に断熱材が入ったことで、上下階への音の伝わりも確実に減った。

ネオマフォームが太鼓鳴りを止めた
ここが、オーディオ的に最も重要な発見だった。
ネオマフォームは、発泡スチロールをきめ細かくしたような素材だ。
それを既存壁に上貼りすると、こうなる。
壁の太鼓鳴りが収まる。

以前は壁をコンコンと叩くと、ボンついた音がした。
今は叩いても響かない。
壁が余計な音を出さなくなったのだ。
方舟のALCと同じ考え方だった
これは偶然だが、長岡鉄男氏の「方舟」と同じ構造だと後で気づいた。
方舟は鉄筋コンクリートの内側にALCを貼っていた。
長岡氏はそれが「適度に低音を吸収してくれた」と書いている。
剛性の高い躯体の内側に、適度に音を吸う層を持たせる。
私のネオマ断熱ボードも、結果的に同じ役割を果たしている。
内窓と簡易防音ドアで音の逃げ場を封じているにもかかわらず、嫌な反響が出ない。
音響的にも成功だった。
床の強度 ”同じ部屋の中で音が違った”
もう一つ、決定的な発見がある。
踏み心地が違う場所があった
昔のリフォームでオーディオルームが広くなったとき、スピーカーとラックをどこに置こうかと部屋の中をうろうろしていた。
そのとき気づいた。
北側の窓のある壁の前だけ、フローリングの踏み心地が違う。
足でドンと踏んでも、びくともしない。
他の場所とは明らかに違う。
理由は単純で、そこは以前ベランダだった場所、床下がコンクリートなのだ。
スピーカーには強固な床が必要だ
その場所にスピーカーとオーディオラックを設置した。
結果はこうだ。
- 低音がぼやけず、深く伸びる
- 音像が明確になる
- 立ち上がりが良い
- 立体感が出る
そして今、ハウリングマージンは無限大だ。
どれだけ音量を上げてもハウリングしない。
同じ部屋の中で、床の構造だけが違う。
それでここまで音が変わる。
オーディオボードやオーディオラックが重くて硬い理由も、ここにある。
あれは床の補強材でもあるのだ。
✅ハウリングマージンの測り方は👇こちら
✅オーディオラックの選び方は👇こちら
いずれは無垢フローリングに
LDKや他の居室、廊下はこだわって無垢のフローリングにした。
無垢フローリングは、中身の詰まった本物の木だ。
オーディオルームは予算の都合で、まだまだ使える突板フローリングのままだが、いずれ剥がして無垢に張り替えてみたいと思っている。

吸音しすぎない <現状と今後の課題>
音を止める話ばかりしてきたが、吸いすぎてはいけない。
冒頭の音楽室の話に戻る。
現在の音響調整
◆床:突板フローリングの上に、部屋の四分の一ほどの面積の、毛足の長いラグを敷いている
◆ソファ:2.5人がけの革張り
◆窓:レースのカーテンと遮光カーテン
新たに取り付けた内窓のLow-Eペアガラスは、叩くと「ピーン」という共振音がする
これは気になるかと思ったが、レースのカーテンだけで十分収まった。
高音域の吸音は簡単だ。
布を1枚吊るせば済む。難しいのは低音の処理である。

残っている課題
正直に書いておくと、まだ完璧ではない。
■場所によってフラッターエコーが出る
■丸いガラスのサイドテーブルが共振することがある
これらは今後の課題だ。
ただ、どちらも「吸音材を足せば解決」ではなく、配置や素材で調整すべき問題だと考えている。
断熱リノベの、思わぬオーディオ的恩恵
最後に、断熱リノベがもたらした最大の副産物を書いておきたい。
部屋が静かになった。
外来ノイズが激減した結果、暗騒音レベルが下がった。
これが何を意味するか。
ケーブルを替えたときの音の違いが、はっきり分かるようになったのだ。
以前は「なんとなく変わった気がする」程度だった差が、明確に聴き取れる。
S/N比が上がるというのは、機器のスペックの話だけではない。
部屋のS/N比いうものが確かに存在する。
ケーブルやアクセサリーに投資する前に、部屋の静けさを確保する。
これは遠回りに見えて、実は最短ルートかもしれない。
まとめ ”部屋こそ最大のオーディオパーツ”
長岡鉄男氏の教えは、私の中に染み付いている。
方舟の本は何度も読んだ。
方舟のような専用建築は建てられない。
だがリノベという制約の中でも、その思想は実践できた。
この記事で伝えたかったこと
✅ 防音室と吸音室は別物。 音楽を聴く部屋を吸音室にしてはいけない
✅ 間取りの見直しが、最も効く遮音対策になることがある
✅ 音は開口部から漏れる。 内窓、防音ドア、使わない窓を塞ぐ
✅ 断熱工事は遮音にも音響にも効く。 ネオマフォームは壁の太鼓鳴りまで止めた
✅ スピーカーの下は強固であること。 同じ部屋でも床が違えば音が変わる
✅ 完全防音は目指さない。 適度に抜け、適度に反射するバランスが要る
✅ 部屋が静かになると、機器やケーブルの違いが分かるようになる**
コンクリートで固めた部屋は、昔の銭湯のように反響しすぎて音の逃げ場がなくなる。
逆に昔の木造和室で襖に囲まれていれば、音は抜けるが低音が不足する。
オーディオはバランスが大切だ。
そしてそのバランスを決めているのは、機器ではなく部屋である。
これから新築やリフォームでオーディオルームを検討する際は、工務店に上記のことを伝えてみて欲しい。
部屋の環境が整ったら、次は機器の接点にもこだわりたい。
ケーブルの酸化や抜き差しの手間は、バナナプラグで解決できる。
✅バナナプラグの使い方・選び方・取付け方を徹底解説👇こちら
✅リノベでのサラウンド配線の失敗と教訓は👇こちら
✅両親の寝室にテレビ壁を作った話は👇こちら
✅テレビを壁掛けにした話は👇こちら
✅間接照明でオーディオルームの雰囲気を作った話は👇こちら
👇もくじをタップすると読み返したい箇所にジャンプします。
【もくじ】
- 音楽室の記憶 ”あれは吸音室だった”
- リノベ前はクレームだらけだった
- 開口部を塞ぐ 「音は穴から漏れる」
- 断熱工事が、遮音と音響を連れてきた
- ネオマフォームが太鼓鳴りを止めた
- 床の強度 ”同じ部屋の中で音が違った”
- 吸音しすぎない <現状と今後の課題>
- 断熱リノベの、思わぬオーディオ的恩恵
- まとめ ”部屋こそ最大のオーディオパーツ”
2026年8月吉日
◆Amazon Music unlimitedに加入して高音質で音楽を楽しもう。
自宅でも、外出先でも、簡単に音楽にアクセス
追加料金なしでHDが利用可能に!
\Amazon Musicの詳細はこちら/
👇


![HiVi (ハイヴィ) 2026年 夏号 [雑誌] HiVi (ハイヴィ) 2026年 夏号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/41HBuInjvTL._SL500_.jpg)
